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15年前に書いたエッセイを大公開!第二弾!

それからの日々は本による多彩な魔術学習やミリーによる戦闘訓練を取りやめて、時間の許す限り気功の魔術のみを学んでいた。

 そして2年の歳月がたち季節は5月にさしかかろうとしていた―――。

「夷月、少し大切なお話があるの」

 夕食を済ませた後、詩穏が静かに口を開く。その言葉を聞いた時点でただなんとなく不吉な予感はあった。いつも平静を装っている詩穏だが、今に至って何かをこらえているような、そんな雰囲気だったからだ。

「・・・なんだ?」

「とても驚くと思うかもしれないけど、いずれ言っておかなければならないし、何より時もあまり猶予もない。だから、今あなたのことについて教えておこうと思ってね。心の準備はいいかしら」

「・・・ああ」

心の準備などなくとも話し続けるだろうという皮肉さえ、浮かばないほど俺は詩穏から出る言葉に冷たい汗をかく。

「そう、なら話すわね。実はあなたはここの家の子ではないのよ」

こおりついた。まさに今思考が崩れていくのを感じ取れる。彼女は今いったい何を言ったのか―――。

「な・・・なにを冗談」

「私が冗談を言ったことがあったかしら。ショックなのは良くわかるけど事実よ。

まずはそれを受け入れなさい。まだ話すことはあるのだから」

―――そうだ詩穏は冗談などいう人間ではない。時と場合によっては嘘偽りを言うものの、それは物事の最善を図ってのこと。今はそのときではない。

「・・・とりあえず、先を話してくれ」

「まずは後回しということね。まぁいいわ。とりあえずあなたはここの人間ではない。

私の母があなたの実親からある取引であなたを並みの魔術師になるまでの間預かっているのよ」

「取引・・・だと・・・?」

「ええ、取引内容については私からは教えられないわ。知りたいなら向こうの親にでも聞くのね。おそらくはすぐに教えてはもらえないだろうけれど」

「それじゃ・・・、俺はなんのために魔術を教わっていたんだ!」

 怒りから目眩がしてくる。凡人にもかかわらずただ峰崎家の名を汚さぬようにと、必死に耐えぬいてきただけのあの魔術訓練はいったいなんのために―――!!!

「峰崎は無駄なことは一切しないわ。あなたに引き裂いた時間も無駄ではない。あなたに魔術を教えた理由についても向こうへ行けばわかるでしょう」

「――――――」

 息を詰まり、何を聞き、何を答えればわからない。だけど何かが引っかかる・・・。

「―――混乱しているところ悪いのだけど・・・。明日からあなたの実家へ一時的に帰ってもらう。私の帰還命令があるまでそこで暮らすこと」

「待て!それじゃ魔術の訓練はそれまでなしということなのか?俺が帰ることは向こうの親は知っているのか?いやそもそもなぜいまさら!!??」

 混乱している頭で精一杯の疑問を捲し立てる。だってそりゃそうだろう。ここの子ではない、だけど少しの間だけ向こうの家で暮らせだの支離滅裂だ!

「言ったはず、あなたが並みの魔術師になるまでは面倒を見ると。ちなみにあなたはこの2年でそれなりの心得を得たとは思う。だけど、魔術師としては3流もいいところ。もし全うな魔術師にあったとならば、まず命はないでしょうね。だけど時間の猶予がないのにもかかわらずあなたを送りつけることに―――」

「待て、時間の猶予ってなんだ」

 そう引っかかっていたことはこれだ。そもそも詩穏の目が凍てついて見える。俺とミリー以外が見れば、それだけで背筋が凍るほど恐ろしいことだろう。だが俺は知っている。こいつがこういう目をするときは苦しい選択ながらもそれを遂行していくときの決意表明なのだということを。

「よそ様のことだから詳しくは言えないけど、マフィアに狙われているらしいわね。膨大な資金物目当てかそれともマフィアに関する重大機密か・・・、目的はわからないけど、何かありそうよね」

「マフィアに狙われているだって?―――けどなぜマフィア相手になぜ魔術が必要なんだ」

 魔術はけっして人には見られてはいけないものだ。それをなぜ・・・。

いや、さっき詩穏は魔術師の話をしたじゃないか!

つまり―――

「マフィア側も魔術師を用意している―――、ということか?」

「ええ。ようやく頭が働いてきたようだから、忠告しておくわ。敵がどんなに強かろうと様々な状況を判断する能力がなければさしたる問題はない。つまり今のあなたが出来る事といえばどんな状況下においても冷静さを失わないこと。殺し合いに第一に優先されることは敵を知ることでもなく自身を知ることでもない、ありとあらゆる可能性を考え、例え1%でもより多くの活路を手繰り寄せることよ」

 それを峰崎の者ならば絶対に忘れるなと・・・。

 それはまるで師範が弟子に対する最後の教えのようだった。

「わかった。なんだかまだわからない事だらけだけど、まずはやらなければならないことがあるようだな。なら―――」

 迷っている余裕などない。あとはただ血が繋がってはいないとしても姉として尊敬してきた詩穏に無残な結果を残さないと誓うだけ。そして峰崎家としての誇りも忘れず前進するのみだ。

「俺はこの家の人間ではないにしろ峰崎の名を汚さないよう、結果を出すだけだ」

「そういってくれるなら嬉しいわ。ちなみに私たちは一切の手助けはしない。これはあなた自身の戦いであり、今まで培ってきた魔術や戦術の実戦でもある。だから自らの頭でこの窮地を乗り越えるのね」

 実戦・・・、初めての殺し合い・・・。とうとうこの日が来たのだな・・・。

 覚悟ならもう何年も前から十分にしていた。いずれこういう時が来るということも、命を奪うということはもちろん罪なこと。だが、殺さなければ殺される立場にあるのも事実で、その上会ったことさえないが俺の実の肉親が狙われているならば―――



その罪も喜んで容受してみせよう。



「―――了解した」

 俺の決意が見て取れてわかったのか、詩穏は一度目を瞑り、そして席を立ち上がった。

「・・・ならまずは」



 それから詩穏から俺の実家への地図を貰い、住所を教えてもらった。

「それにしてもマフィア関連に随分と詳しいんだな」

「ええ、スパイをもぐらせているからね」

「なるほど。そのスパイとも思念通話でか?」

「もちろん。電話などしているところを見つからないとは限らないでしょう?」

「確かに」

ここで思念通話というものについて説明しておこう。

 思念通話とは詩穏の魔術の一つだ。自分と相手の脳に直接リンクさせ、遠く離れていても会話ができる。かの俺も詩穏と繋がっている、母親と使い間のミリーにも取り付けている。ここで疑問がわくと思うが、決して四人同時にリンクしているわけでない。詩穏は脳を24個に分割処理し、さらに高速思考という魔術持ちなのだ。故に峰崎家は天才一族といわれる訳で、森羅万象を把握しているといっても過言ではない。

―――まぁ詩穏の魔術についてはここまでにしておこう。今は自分のことだけで精一杯なのだから。

「しっかし、部下にも内情を知らせないあたり徹底しているというか・・・」

「まぁ、そんなものでしょう。スパイのことを考慮にいれない上部はいないわよ。部下は必要最小限のことしか伝えないのはマフィアとして活動していくうえでは必至なのでしょう」

「その必要最小限の情報だけでも行幸ということか・・・」

「そういうこと。それじゃ今日は魔術指導はなしにしましょう。あとは自由になさい」

「それじゃ、ミリーと遊ぼうか!」

 ミリーがそういうと抱きついてくる。

「おまえは今までの話を聞いてなかったのかよ・・・」

「夷月が家を出るのは明日でしょ?だからそれまで一緒にいよ」

 今までの緊張感が一気に霧散していく。こうも無邪気な笑顔を見せられてしまうと、なんだかこっちまで笑ってしまう。そんな無邪気なところがミリーらしいといえばらしいのだが。

「さっきまで黙りこくっていたくせに、急に態度変えやがって」

「えへへへへ、トランプあるよ。やろう!」

 こうして一時の安息を過ごし、いつもより早めにベッドへもぐりこんだ。

 

 翌日、示し合わせたように曜日は日曜だ。これなら向こう側も家族総出で迎えてくれることだろう。俺が用心棒としての来客ということは工藤あやめという人物だけが知っているらしい。他詳細は詩穏の口からは教えてもらえることはなかった。

 そして、身支度をすませリビングへ顔を出すと詩穏とミリーが出迎えてくれた。

「それじゃ、いってくる」

「いってらっしゃい」

 ミリーは心配そうにしているが詩穏は相変わらずやはり冷静だった。

「敵はおそらく一週間以内におそってくるはず。それまで適度に緊張感を保つこと。

そして、殺すことにわずかでも躊躇すれば自分の命はないと思いなさい」

「ああ、わかった。それじゃ行ってくる」

「夷月・・・、死なないでね」

 いまにも泣きそうなミリーの頭をやさしく撫でてやる。

「大丈夫。また戻ってくるよ」

「うん、約束だからね!」

「おう」

―――さて、いくか。

 玄関をあけ、太陽を浴びる。

 ゆっくりと旅路を歩いていくと同時に昨日の決意を脳に焼き尽くす。

 魔術を学び始めたころから俺はまっとうな心など失っている。魔術師としての信念を貫く為に、峰崎夷月は戦場をめざした。


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Last Modified : 2019-07-13